文芸誌放談

日本の文芸シーンの最先端である文芸誌を追っかけ、格付けし、思ったことなどテキトーに。

「熊」加賀乙彦(「新潮」2013年5月号)

★★★☆☆ ふつう、かな。

(あらすじ)軽井沢の近くで暮らす作家。ある種の文化村的な集まりもかつてあり、恵まれた自然が生活を彩り、日々喜びを享受している。ある日、庭の栗の木に雌熊が登り、実を食べているのを見つける。はじめは怯えたものの、それも豊かな自然のひとつとして受け入れ、観察対象として移ろいを楽しむようになる。詳しい者に聞けば、なにやら冬眠から目覚めるときは子熊をオス・メスそれぞれ1匹ずつ連れてくるはずとのこと。それを楽しみに待っていたが、親熊は射殺され、子熊たちは動物園にひきとられることになったようで、二度と自宅にその熊が訪れることが無かった。

小説としては、淡々としながらも盛り上がりがあり、ふつうに読める。意外と飽きることもない(勿論、著者の生活は裕福なものでありそれがハナにつくこともあったが)。ただ、正直ってこの小説を好きになることはできない。なぜか。

理由は、あまりにも達観しているから。自然を観察対象として見る視線が徹底しており、いわば「自分が愉しむための装置」としての扱いになっている。動物を含め自然界をあそこまで突き放してみるという精神的姿勢に、私は共感することができない。だから、文章を読んでいても、心の奥から湧き上がるような喜びを感じることは、この小説では無かった。