文芸誌放談

日本の文芸シーンの最先端である文芸誌を追っかけ、格付けし、思ったことなどテキトーに。

「名誉死民」島田雅彦(「新潮」2013年5月号)

★★★☆☆ ふつうです。ちょっと期待してたのだけど。

(あらすじ) 大学院で哲学を学んだヤマダマナブは、スーパーの野菜売り場でアルバイトしている。それ以外はなにもしていない、死んでもいいかと思っている。バイトのあと公園で缶チューハイを2本飲んで酔ったのか、駅のプラットフォームから転落した。21歳の坪田善樹という若者に助けられ、ヤマダは生き残り、ツボタは死ぬ。ヤマダは当初、その事件の記憶が全くない(途中ですこし思い出す)が、償いの方法を探る。ツボタユウコ(母)やツボタユズハ(妹)と話すなかで、ツボタヨシキの代わりに生きるという道を模索する。

なんというか、島田雅彦らしさがイマイチ感じられない作品だった。同号で最終回を迎える「ニッチを探して」はまだ良い(といっても最終回である今回は「やっつけ感」があった。じつは隠し口座に金があるとか、そんな展開は無粋だったのでは?)んだけど、今作は……う~ん。もっとぶっ飛んだ感じが欲しいな、と思う。でも、以前から変わってないのかもしれない、僕にとってはどの作品も「惜しいな勿体ないな」という感じで終わっちゃうのか彼だ。ただし、「彼岸先生」だけは別格。あれは傑作。

閑話休題。もうひとつ気になったのは、公園でマナブがユズハと待ち合わせるシーン。

制服姿のまま公園に現れたユズハは、ブランコに座って待っているマナブを、やや離れたところからじっと観察しながら、ヨシキは自分によく似た人を助けたんだなと思った。(p144)

ここだけユズハの視線から語られているが、違和感がすごくあった。作者の意図が読めない、むしろ編集者の見落としではないかとすら思った。

作品を通じて、マナブがあまりにも無味乾燥すぎて気持ち悪い。これを描きたかったのか?